5/20 コムシティ破綻−黒崎はどこに向かうのか


 
 先日速報として流れたニュース、それはある意味当然のものではありましたが、少なからず私を驚かせ、また悲しませたものでした。黒崎駅西地区再開発事業によって誕生した商業施設、「黒崎コムシティ」の商業部門を運営する第3セクター「黒崎ターミナルビル」 が民事再生法の適用を申請したのです。
 それは、結果としては当然のものでした。核施設なき寄り合い型集合店舗、入りにくい駐車場とどこにあるか分からないエスカレータ、JRと筑豊電鉄との中継アクセスの悪さ、そして決定的なのはコンセプトにそぐわない店舗ラインナップ。景気の低迷している黒崎でこの施設の生き延びる可能性はもはや絶望的でした。
 さて、この施設がなぜ潰れたのか、ということについてはこの後報道などで散々述べられることと思います。そこで本稿ではこの結果黒崎地区はどう変わってしまうのか、この先必要なものは何か、未来に希望をつなぐためには何を教訓とすべきかといったところに重点を置き考えていきたいと思います。
 
 まず交通面から考えていきましょう。交通の結節点としての黒崎は、その機能を縮小させながらも未だ健在です。全ての特急が止まるJR駅と郊外電車の筑豊電鉄終着駅、さらにバスターミナルを抱え、行政機能の少ない当地区の大きなアドバンテージとなっています。そもそも交通の利便性を向上させることは計画の大きな柱のひとつであったはずでした。
 完成した施設を見てみると、人を運んでくれるはずの駅は施設の端に追いやられ、JR駅は塀ひとつ隔てた隣にあるのにそこに行くにはいったんわざわざ三階部分にいく必要がある。バスターミナルの北側から南側に行くときも同じ。これは、当施設だけの問題ではなく、黒崎地区全体の利便性を損ねる重大な問題です。
 これは黒崎が持つポテンシャルの活用法が未だ誤っていることを意味しています。ノード地区(交通結節点)に施設を建てる場合、その利便性に蓋をかぶせるような施設配置で人々にものを買わせるのではなく、より便利にすることで多くの人を運ばせるようにするべきではないでしょうか。まずはJRへの入口を施設内に作り、エスカレータをその入口近くに配置すべきだと思います。

 商業施設に関してはどうでしょう。若者向けのテナントをそろえる、といった話を事業計画当時に聞いたことがありました。黒崎地区は繁華街、とりわけ飲み屋などの飲食店が多く、若者はそこに語らいの場を求めてやってきます。彼等に必要なジャンルのテナントをそろえることが出来れば、多少の構造条件の悪さも克服できるでしょう。
 オープン後に私は期待を持って覗いてみました。しかしそこにある施設の多くは、郊外型施設にはどこにでもあるようなテナントばかり。わざわざ黒崎に行くまでもなく、わざわざ駅から階を上らなくても家から車で20分以内にあるようなものが誇らしげに存在しました。唯一楽しめそうなのは六階のアジア雑貨ゾーンくらいですが、それとてゲームセンターと共存する雰囲気とはとうてい思えません。末期にはテナントの撤退が相次ぎ、さながら黒崎井筒屋移転直前のメイト専門店街のようでした。人も少なく穴だらけのテナント。この時点で秒読み段階だったのです。
 商業施設で黒崎に欠けているのは、都会らしいコンセプトです。電化製品ひとつをとってみても、中心部に情報機器専門店がないのはかなりの問題だと思います(ベスト電器は家電の専門店であっても、情報機器の専門店ではありません)。ある程度のマスがあってこそ成立するような、こだわりのある店舗の誘致。それは郊外型店舗の成功例に学ぶのではなく、また独身女性のみをターゲットにするものでもない、都市に働く人たちが便利といって帰りに足を運ぶような地に足のついた施設であるべきだと思います。他にないものを探し求めることは確かに大事ですが、逆に他の市街地にはあって黒崎にも必要なものについても考えても良いのではないでしょうか。今の黒崎はもはや周辺域から休日の買い物客を大量に呼べるようなネームバリューを失っていると考えるべきです。

 さて、これから黒崎が目指すべき姿とは何でしょうか。もしこれからも周辺域の中心として都会的な空間を提供する方向でまちづくりを進めるのであれば、そこに必要なのは都市としての「ゆとり」です。公園と文化施設、または“買い物以外”の時間消費型テナントが求められます。これらは民間事業者では施設を作りづらいものばかりです。市の考える副都心整備計画では新集客ゾーンとして国道200号線北九州プリンスホテルと九州厚生年金病院跡地周辺域を挙げています。市の考える構想の多くはこの地点を想定して考えられるものです。うまくいけば、この地点が核となって駅前からの人の流れを作り出すことが出来ます。周辺域、出来れば国道200号線東部域に民間などが駐車場を作ることでコムシティ、新文化施設の両方へ人を持って行きその結節点として商店街が機能する状態が生み出されれば理想的です。そう考えると、撥川から蛎原公園にかけての一帯を公園として整備すれば町の玄関口(車の場合)が公園という、常に賑わいを持つ都市型公園の理想型が登場する可能性もふくらみます。
 現在の黒崎が抱える都市不況はもはや多少のカンフル剤では拭うことの出来ない深刻なものとなっています。私としては安川電機移転に伴う黒崎駅北口整備というような、一歩間違えれば労働のための都市来訪者すら消えかねないという深刻な事態を招くものよりも民間の土地活用による現市街地の再編成が必要ではないかと思います。宿場町としての貫禄(歴史的遺産の残存度、という意味)も殆ど残らないこの地区に残されている選択肢は「時代のニーズを真摯に受け止めること」しかないのではないかと強く感じます。

 黒崎が抱える都心部活性化問題は、いずれ場を改めて述べたいと思います。 

参考サイト
北九州市建築都市局再開発部再開発課サイト  http://www.city.kitakyushu.jp/~k1403040/
黒崎ターミナル株式会社ウェブサイト http://www.com-city.tv/
北九州市建築都市局都心・副都心開発室副都心開発課サイト  http://www.city.kitakyushu.jp/~k3503020/


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